悩めるマネージャーのための「マネジメント・バイブル」國貞克則著
さまざまなリーダーシップやマネジメントの著作を読んできた。が、その中で1冊推薦してといわれると迷わず國貞さんの「マネジメント・バイブル」を上げる。國貞さんはシリーズ90万部のベストセラーになった「財務三表一体理解法」で有名であるが、ドラッカーをはじめとしたマネジメント関係の著作こそ、著者の本領発揮と思う。
本書は、今やものつくり大学教授としてドラッカー研究の碩学となられた、当時の東洋経済の井坂さんから「本当はもっと書きたいことがあるのでは」とうながされて書いたというエピソードも興味ぶかい。ご本人はドラッカー大学院をでられたMBAホルダーでありながら、ミンツバーグばりの脱MBAの経営論という副題の本書を2008に出版された。
本書につらぬかれているのは、マネジメント論でありながら、ご自身が一流企業から独立されるなかで身をもって体験された、生き方論である。独立当初は仕事が順調にいかず、終電後のタクシーにさえ乗れなかったこと、コンサルタントだけはやりたくないと思っていたのに、結果として中小企業のコンサルティングで身をたてられるようになった経緯、そしてその流れで開発された財務理解の方法論で今日の地位を気づかれたことなど。 本書にあるマネジメントの肝は「自分のマネジメント能力は極めて低い」と認識することという一文は、こうした体験から絞り出された言葉のようだ。 著者が独立してよかったこととして挙げる、己の能力を過信していたという事実が崩れていくことで、謙虚さと感謝にたどりついたというプロセスがこうした箴言をつくっているのだろう。
随所に挿入されているコラム群も、本書に奥行きをもたらす。その中のひとつ、筆者が主催したワークショップで、ロールプレイをやめないある参加者がとりあげられる。その方は70歳を超えた2代目社長なのだが、涙をながしながら「人生で初めて会社を辞めたいと口にできた」と感謝していたという。このユニークなエピソードはオーナー企業として経営に携わる自分にも深く心にささった。
あまり書いてしまうとネタバレになるが、例えばSWOT分析も実施は大切であるとはいえ、現実に簡単に強みが見つかるものではないこと、また人を扱う上では嫉妬心を意識することも重要であるなど、教科書的な物言いから漏れ落ちるような現場での知恵にあふれる。
私は筆者のこうした真摯な姿勢に感銘をうけ、発売当時数冊購入して当時のリーダークラスの方に配ったものだが、往々にして推薦された書籍が余計なお世話になることは、逆の立場で体験している。とはいえ当時はそれでも配らざるを得ないと思わせるような筆力を感じた。
先の三位一体も大変参考になったが、筆者のドラッカー関連の新書もコンパクトながらドラッカーの神髄である「人間が幸せになるため」の組織観や人間観にあふれたものであり、こちらも折をみて手に取っている。最近は経営幹部向けにドラッカー関係の新著もだされが、個人的には独立時の艱難辛苦にふれられた本書がよりしっくりくる。
昨今はYoutubeでもマネジメントに関連した有益な動画があふれ参考になる。が、いずれもコンサルティング的目線が感じられ、本書のようなマネージャに寄り添った視点のものは稀有であろう。まさに私自身も含めた「悩めるマネージャーのための」一冊である。


