萩の旅
先日、山口県の萩をおとづれた。実は観光ではなく、この秋に開催されるリーダーシップの旅という企画旅行の下見のためである。
この研修は、久野塾という私塾が開催しているもので、私は、たまたま取引先の方から紹介をいただき、その1コースに
この春から参加している。この塾は元外資系のCEOで、現在はエグゼクティブコーチングの会社を経営する久野さんが
お仲間とともに10余年前に始められ、現在は社団法人としてリーダー創出のための学びの場を提供されている。
萩合宿はそのオプションとして、吉田松陰から学ぼうという企画である。今回そのお手伝いをすることになり、萩の現地の
方との打合せのためにで訪問してきた。
現地で驚いたのは、地元の多くの方が積極的に企画の支援をしてくださっていることだ。そもそもこの企画を10年前に
打診した萩の名刹の住職さんや、江戸時代に藩の財政を支えた豪商の流れをくむ美術館の館長さん、そのほか萩と松陰に惚れて
他県から移住された方などにもお会いする機会があったが、皆さん大変すばらしいお人柄の方ばかりである。恥ずかしながら幕末や維新
の知識がほとんどなかったため、司馬遼の「世に棲む日日」で付け焼刃の松陰や高杉の足跡を学ぶところから始めたが、改めてこの
小さな町から、近代化の偉人が何人も排出されたのは特別のことだと思わざるを得ない。
長州毛利家はもともと関ケ原で徳川に負けたため、この不便な地域に追いやられたらしいが、そうした制約の中で、たとえば
明倫館に代表される人材育成に力をいれたこと。また、財政難時代に新たな産業振興を行い、内部留保を厚くしてきたことで、
新しい時代に対応できる原資となったことなど、企業経営につながる背景も見えてきた。私自身もここにきて、松陰ではないが、
社内で社員の方とともに学んでいく場を企画しているのだが、その発想もこの地を訪れたことにかなり影響された自覚がある。
とくにこの合宿がユニークなのは、松陰神社で上田名誉宮司から直接、境内にある松下村塾の建物をお借りして講義をうけると
いうもの。松下村塾はふつうは外から見るだけになるのだが、塾生ということで特別に入れてもらえる。ようやく雨風をしのげるか
という程度の質素な建物の中から、時代を変革する人材が数排出された、場の力が体感されるのだろうか。上田宮司は80代の半ば
とお聞きしたが、その矍鑠としたお話しぶりには驚かされる。
また、懇親会には、毛利藩の財政を支えたという豪商の「熊谷家」の重要文化財の建物を例年お借りしている。こちらも通常は
外部からの観覧だけだが、当日はその歴史的建物の中に、地元の方も大勢お呼びして交流を図るということで、そうした機会も楽しみ
である。
熊谷家は一時は藩の財政の65%を支えたといい、今に換算すると大谷選手の収入より多いということに驚くが、一方で建物の作りは質素であり、ましてや財を誇るような鯉が泳ぐような池もあえてつくっていない。そして江戸の飢饉のときには米蔵を開けて地元の住民に食料を
放出したとか、また幕末には維新関係者をかくまったり財政面で支えたりと、まさに影の立役者としてふるまってきたことを知った。それにしても敷地は広大であり、また文化財であるという制約のもとでの維持管理にも苦労しつつ、それでも萩の歴史を守っていこうという館長の気概に敬服をした。
そのほか訪れた場所でのお話にはそれぞれ感銘をうけたが、それはまた追ってお伝えすることとして、こうして萩を訪れて改めて
明治維新と現代に重なるものを感じる。当時はイギリスとロシアが我が国の権益を争い、そのどちらにも技術力、軍事力では対応できない日本は相当に追い込まれたはずだ。
中国は列強に植民地化され、一歩間違えば同じような状況になってもおかしくなかった状況を、硬軟取り混ぜながら乗り切ってきたことは
ある意味奇跡的な結果のように思える。そして今、私たちが直面するのは、鎖国からグローバル化という流れとは真逆であるものの、
アメリカが世界の基軸として民主主義と秩序の維持としての機能を手放さざるをえないという歴史の大転換期であり、国ごとの覇権争いが
さらに激しくなることが予想される。また、人口減少、競争力の低下という国力に対する自信喪失が、昨今の政治状況からも感じられるが、
私たちの先達はそれこそ何もない状況から新たな時代を切り開いてきたといえよう。 その後の戦争に続く流れは評価できるものではないが、いずれにせよ形のない、知恵と精神でのりこえてきた過去に思いをはせながら、将来にむけて取り組んでいう気持ちにさせていただいた。
吉田松陰の象徴的エピソードは、獄中で罪人とともに学び合いの機会をつくったことで、 いわゆる「松陰の獄中教育」といわれている。
それぞれの罪人が学ぶこと、教えることを通じて新たな人生を切り開いていったといい、この体験がのちの松下村塾のスタイルになったと
いわれて いる。 まだ一塾生であるが、来年以降はできれば社員の皆さんにもこうした塾に参加できる機会をつくっていき、また当社を
お互いがともに学び合える場としての器となれるようにもしていきたい。

(松陰神社近くにできた松下村塾のレプリカの建物より:(株)ショウイン様所有)
上記の合宿は広く一般募集しています。ご関心のある方は下記ご参照ください。 https://hisanojuku.jp/leadership_in_hagi/
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