やる気は「ださせる」ものか
ちょっと個人的に大事があってしばらくブログからご無沙汰した。
そんななか、スコラ・コンサルトの高木(たかき)穣さんが、満を侍して出版をされた。タイトルは「職場にやる気が湧いてくる対話の技法」(同文館出版)。
高木さんとの出会いは、20年ほど前に、スコラ・コンサルトが中小企業経営者向けに企画した「経営者アカデミー」という場に参加したときだった。創業者の柴田さんの肝いりで数人のプロセスデザイナー(ファシリテータ)から構成される実践型のワークショップだったが、高木さんはその中でも独特の味をだしておられた。
組織変革の仕事に永年たずさわりながら、経営そのものにあまり興味がない、などと言われるとこちらも面食らうのだが、その関心は「オフサイトミーティング」という場の不思議さにあるらしい。剣道の有段者でもあることから、居合いのように「空間の中にただよう瞬間の言葉を、その場でキャッチして別の方向に投げる」などと言われる。オフサイト職人というのにふさわしい手練れである。
今回は組織には建前の下に、本音の3階層があるという新たな視点を提示された。すなわち本音の第一層は、不満と愚痴と他者批判で、これは表に出やすい。その下は第二層である、不安や恐れ、悲しみがあり、これは表にだしにくい。さらにその下の第三層には、純粋な思いや願い、使命感といったものがあり、これはそもそも気がつかない、ということだ。
今は洗練されているいるようだが、私がスコラさんに出会った頃の場づくりのスタイルは、この第一層をそれこそ半年以上かけて徹底してやるという徒手空拳的アプローチであったようで、結構な胆力を要求されるものだったのではないか。
たしかに、組織において評価される立場にあると、人は自分の不安や弱さというものを見せることを躊躇する。しかし、いみじくも伊丹敬之先生が、性善でも性悪でもなく、「性弱説」と表現されたように、人間の本質に近づくには、その脆弱さに目を向ける必要がある。困ったときに、仲間同士でため息をついていると、何故か深いつながりを感じて、それでも現実に向き合おうというエネルギーを得られることもある。
この3階層は、いわゆる「U理論」におけるUの谷に下がっていく(ダウンローディング)プロセスから、新たなものを生み出す「プレゼンシング」の流れを別の意味で表現したようにも思える。しかし、純粋な思いや新たなものがうまれるというリアルなプロセスでは、この2層目と3層目の間に横たわる、答えのでない混沌とした厚いカオスの沼の中で、どれだけ踏ん張れるかが問われるようだ。恥ずかしながら自分の職業人生は、常にこの沼の中を歩見続けているようにも思える。沼に咲く蓮の花を探しながら。
本書の核心は、馬に水を飲ませる話ではないが、「やる気をださせる」のではなく、「やる気が湧いてくる」にある。この「やる気」という得体の知れないものに左右される人間組織というものにありのままとりくまれてきた今回の著作にみられる智惠は、組織開発というキーワードがポピュラーになっているなかで、根性の昭和、効率化の平成を越えた、答えの見えずらい令和の時代に求められる視点であるように思う。
高木さんの独特のキャラクターに出会うには、スコラの対話系のセミナー各種がある。参加するとなんとなく「やる気」がわいてくる。不思議だ。