リスキリングあるいは50の手習い(2)
授業の内容は、マーケティング、戦略論、経済学、会計、ファイナンス、組織論、といった経営学
分野に加え、リーダーシップ、コーチングといったソーシャルスキル、リスクマネジメント、
プロジェクトマネジメントといったマネジメント系、また、統計学に加え、フィールドワークや
エスノグラフィーといった質的な研究手法による組織文化論まで多岐にわたった。
かわったところでは「最悪のことが起きても、死ぬわけではない」と繰り返し声に出して認知を
変える、また身体をつかってリラックスさせるといったメンタルマネジメントの授業もあった。
まさかジャージを学校にもっていくとは思いもよらなかった。
最近話題になっている、データサイエンスの入り口をいくつかの授業で体験できたのも、有益だった。
といっても授業では初回の説明のみで、あとは自力でデータを集めて、指定された機械学習の手法に
そってR言語で分析をし、分析結果と考察をプレゼンテーションするというもの。公共のデータが
なかなか入手できないため、自らアンケートを行ったりしたが、スーパーのゴミ箱からレシートを
集めてきてデータ収集するまでの猛者もあった。
授業で特に想い出に残ったのは、大学が夏休み、冬休みの時期に行われる海外遠征であった。
といってもなにかを聴講するわけでない。先生が個人的に交渉をしてくれた海外の企業や
非営利団体に訪問し、その団体での課題に対してソリューションを現地でプレゼンテーション
するというもの。
私自身は1年目の夏のスイス遠征に参加した。相手方の企業とオンラインで面談し、企業概要
を理解する。そしてインターネット等を使って調べたデータをもとに、提案書を構築。最終的
にはたしか100枚近いスライドになった。お相手はキャッシュの引き出しを、銀行のATMではなく
通常の店舗のレジをつかって行えるようにするというサービスを提供する会社であった。スイスは
日本と同じく、日常的にそれなりにキャッシュを使う事が多いが、日本のようなATMが少ない。
日本市場へ進出するためのプロセスを提案することがテーマであった。
同行する先生は自ら対応してくれる企業を探し出す熱心さもあり、一方では妥協を許さない
事でも有名で、中途半端なプレゼン資料に対しては厳しいコメントが下った。同じチームの方
と、夜中までオンラインで議論をしながら、ここまで完成度求めなくて良いだろう、と思い
ながらも若い同級生の頭脳とエネルギーについて行こうと思ったがずいぶん足をひっぱった。
スイスで驚いたのは、さすが金融の国であり、至る所に仮想通貨を含む金融サービスのベンチャ
ー企業があったことで、訪問の過半数はそういった企業であった。また、レマン湖のほとりに
位置するリヨンの欧州サッカー連盟(UEFA)に訪問し、サッカーの視聴率をどうあげるか、という
議論をしたのも良い想い出だった。湖の畔のオフィスで、こんな環境で仕事ができたらどんなに
素晴らしいものだろうか、と思ったものだ。
渡航費の補助も出る、こうした実践的な体験ができるというのは、コロナの直前でもあり
なかなか得がたい体験だったが、当時はついていくのがやっとで愉しむ余裕はなかった。同級生
のなかには、こうした遠征を複数こなしながら、ファイナンスの企業提案コンペといった単位に
ならないイベントにも参加する強者も何人もいたのは信じられず、年齢には勝てないことを痛感。
もう一度経験したいかといわれれば、その過酷さ故にご辞退申し上げる、というのが本音の
ところだ。(続く)
(左:欧州サッカー連盟から見えるレマン湖 右:それらしく企業でプレゼンをしている)