泳ぎを楽しむ(1)
あまりにも熱いので、屋外プールに泳ぎに行った。コロナ禍が始まって水泳を中断してしまったので、実に5年ぶりになる。実は昨年の夏に大きな手術をして胃と食道を切除したので、はたして水泳ができるまで回復しているか、とおっかなびっくりだったのだが、泳ぐことはできた。しかし術後に体重も1割強落ちてしまい、体力もなくなったので、休みながら30分くらい水と戯れるのが精一杯だった。
もともと運動は中年期に慢性疾患になったこともあり、おだやかなところからということで公営体育館のヨガ教室にいった。今でこそ男性のヨガ人口は増えたが、20年以上前は教室に男性が1,2名という事もあり、ずいぶんと肩身も狭かった。しかし、並行しているダンスの教室などを出るようになり、徐々に運動習慣がついていった様だ。その後はお決まりのジョギングをはじめ、ハーフマラソンにも数回参加したこともある。会社で地元のマラソン大会に出ようという有志の集まりもあった事も背中を押した。
しかしその後、足首を痛めてしまい、走るのが難儀になってしまった。なにかその他健康維持になるような運動はないかと模索していたときに、TIスイム竹内さんの泳ぎをYoutubeでみて、その泳ぎにおどろいた。それまではクロールというと、手足を激しく動かし、しぶきを上げながら泳ぐものとおもっていた。まったくしぶきの上がらない脱力感のあるこの竹内氏のスタイルに感銘をうけ、DVDを購入したり、荻窪のプールでのグループレッスンに参加するようになった。
https://www.youtube.com/watch?v=rJpFVvho0o4
この泳法は、もうなくなったアメリカのテリーラクリンという方が開発したものだが、当時から米国に在住していた竹内氏がやはり健康理由で水泳を始めたようとしたときに、ビデオかなにかで知り、ご自身がそれまでのキャリアを変更して水泳指導者になったという事らしい。元々起業家であられたので、日本での健康ビジネスにつなげようと日本の法人を立ち上げられ、プロモーションのためにyoutubeにあげられたのがこのビデオのようだ。
この泳法の指導の特徴の一つに、動作を細かく分けたドリルがあることがあげられる。スーパーマングライドという、いわゆる蹴伸び
の動作にさえ、頭をフラットにかつ深く水面にいれるようにするための細かな手順がある。「顔で水を押す」といったようにも表現されていたと記憶するが、こうした説明もユニークでありかつ科学的な感じがした。その他、スケーティングやスイッチなどといった言葉のついたドリルが様々あるのだが、水を搔いて泳ぐのでは無く、水に穴をあけるようにすべる、という感覚を習得されるためのものである。私も最初、地元のプールでこうしたドリルだけを繰り返し練習したが、通常の水泳教室で教える方法では無いので、なにをやっているのだろうと奇異にみられた。それでもこうしたドリルになれてくると、手足をそれほど動かさなくても浮いているという状況になる。そうこうするうちに、以前は25mがやっとだったのに、リラックスしながらだんだんと長距離がおよげるようになっていく、という不思議な感覚をえることになった。
竹内氏の指導の特徴は、毎年新たなコンセプトや手法を、創始者を上回るようにして次々と開発されたことだ。これはアメリカ発祥のコンビニやマクドナルドが日本に来てより洗練されて発展していくというスタイルに近いように思う。「美しいクロール」というのも当時は新鮮であった。ビデオでもわかるように氏の泳ぎはその正確さとキレにおいて創始者のテリー氏をうわまわるといってよいだろう。そのために実はビデオをとって細かく修正を加えているということも後で知った。例えば入水のての形や角度、脇のあげ方、キックのときの足のそれぞれの関節の曲げる角度など、一般には距離やスピードを重視する水泳において、美しさを追求するアプローチは斬新だった。水泳のように短調な繰り返しの運動において、特に成人が距離やスピード以外にもにも上達感、達成感を感じるための方策であったようだ。私自身も距離が泳げるようになってきてからは、この美しさに力点をおいた練習にも一時とりくんだ。すると地元のプールでも「どうやって泳いでいるのですか」などと声をかけられることもあり、モチベーションにつながったものだ。今はなくなってしまったが年に1度だけ「美しいクロール(通称美クロ)」トレーニングが1泊2日で行われていた。これはコーチや参加者との交流もあり愉しいものであった。マニアックなのは、練習が終わると食事後にロビーに集まってお酒を飲みながら練習談義をするというものだった。よるに自主練習をする方もいて、その熱心さに影響されることも継続する動機付けになったように思う。(つづく)