リスキリングあるいは50の手習い(1)

 数年前に、なんの酔狂か経営大学院に入学することになった。自宅からはドアツードアで1時間半、
通学の不安もあった。またミンツバーグをもちだすまでもなく、あまり経営に関係はないという意見
も耳にする。しかし経営理論といえばドラッカーだろうと理解していた当時、(今ではメディアでも
よくお目にかかる)入山章栄先生が「最先端の経営学」シリーズを目にして、そうした世界観の一旦
でも触れてみたいと思ったのがそもそものきっかけだった。

 学校の選択はその昔、ある通訳学校の一般コースにしばらくお世話になったときに、クラスメイト
がその後英語によるMBAコースを卒業されたことが記憶に残っていた。学生時代は英会話サークルに
在席し、またその頃杉田敏先生の「やさしいビジネス英語」という、やさしくないが画期的なラジオ
番組がはじまった時期でもあり、途切れ途切れになりながら社会人になっても学習は続けていた。
しかし当然面接も英語ということで、慌ててフィリピンにあるオンライン学校に登録し、付け焼き刃
ながら出勤前の学習を始めた。ネット上には入試の情報は少なく、どうなるかと思ったが、エッセイ
と面接でなんとかすべりこんだ。

 入学式ではさすがに最年長を覚悟していたのだが、同年代の同級生も30人中3人いたのが
心強かった。公立の学校だったので許容度も高かったのかもしれない。しかし、その中には卒業後
外資系企業のトップになられた方もいるので、特に外資ではこうしたキャリアアップにつながること
もあるのだろう。

 特徴的だったのは、多くの授業がグループワークを取り入れているところだ。単位を取得するには、
個人のレポートの他に大抵はグループプレゼンテーションが待ち受けている。留学生も数多くいる
なかで、チーム分け、発表のすりあわせなど、それなりにソーシャルスキルも要求された。夜9時
過ぎに授業がおわってから、10時、11時とチームミーティングのはしごがつづき、場合によって
は始発で帰るときなどは結構しんどかった。

 レポートも特に1年目の前期は必修科目の期限が重なることが多く、学校で完徹する学生(と
いっても40代だったり)もしばしば目にした。私自身も深夜のファミレスで朦朧となりながら
画面にむかうことも。こうして睡眠時間が減ってくると、もともと性能の悪さが自慢の短期記憶が
さらに破綻するという体験もした。持参するPCのマウスを、自分でいやになるくらい繰り返し
紛失したり、学生証をどこかに置き忘れ、近隣のお店を夜中にさがしまわったときには、好んで
やっているにも関わらず「もはや限界か」とまで思った。それでも、対話形式によるケーススタディ
などそれまでには体験したことのない学びの場は、発言がそのまま評価につながることもあり、
新鮮で刺激的な場であった。

 当時は夜中に帰ることが多くなって、家人にも時間的にかなり迷惑と負担をかけた。自分も必死で
あったのだが「家族としても大変だったのよ」といわれたのは、卒業がきまったのちのことだった。
(つづく)