組織論ははてしない
最近「だから僕たちは、組織を変えていける」(斉藤徹さん)という本が売れていると聞きます。私が風土改革にであったころは、組織改革は全社方針展開的なやり方が主流で、内発的動機やファシリテーションといったソフトアプローチは一般的ではありませんでした。昨今のフレデリック・ラルーの「ティール組織」への注目やこうした書籍が評価をえるなど、組織改革にもこの20年でずいぶんと大きな変化をとげてきたと感じます。
柴田さんの風土改革は、こうしたソフトアプローチの先駆といえるかと思うのですが、インフォーマルグループへのアプローチとしては、そもそものGEのホーソン工場でのいわゆる「ホーソン実験」から提唱されていることであったのだということを改めて認識しています。
経営者となった30代にそれこそなにかの手がかりがあれば、とむさぼり読んでいたドラッカーの著作にこのところで改めて目をとおしています。当時は「顧客の創造」に代表されるマーケティングとイノベーションの重視に目が行きがちだったのですが、ドラッカーが組織行動論にも鋭い洞察をしていたことに改めて気がつきました。
ドラッカーはアメとムチに代表される「評価ー報酬」による組織管理論は、これからの知識社会においては完全に通用しなくなり、当時アメリカで採り入れ出された人間関係論への視座の変化には大いに同意しています。しかしこの「人間関係論」も、その方向性には共感しつつ、「むずがる子供への砂糖水」という辛辣な言葉でその限界を指摘しています。(「現代の経営」第21章)。
さらに、IEの基礎となったテイラー「科学的管理法」の完成度を賞賛しつつも、一方で、そうした要素分解による仕事の細分化が人間の本質から外れ、仕事を「統合」することを強調していることも改めて認識しました。とくにフォードの自動車ラインの完成こそが、そうした人間の本性から外れた方向への導きになったと強調しています。柴田さんの風土改革の思想にも、こうした「仕事の意味」や「全体感」をもつということが強調されていると思いますが、こうした仕事の有意義性やタスク・アイデンティティというものをドラッカーは端的に「統合」という言葉で表現しています。こうしたドラッカーの見識は、リーダーの資質としての「真摯さ」をあげたことに匹敵する卓越と言えるのではないでしょうか。
もちろん、ドラッカーの特徴である、こうした批判に対する明確な回答を述べているわけではありません。しかし、人間は外部の入力に対して、単純なアウトプットをするようなものではない、というごく当たり前のことを的確に表現していることを改めて感じます。
自分の整理としては、「戦略」と「組織」はとかく別の物として補完関係的にとらえられるものですが、顧客への貢献といったビジネスの目的を追求すればするほど、そこに対する人間の本質的に持っている特性というものが現れるようにも思います。いずれにせよ内部のルールやマニュアルに縛られすぎず、組織のブラックボックスやカオスを意識的に残していくという大沢武志氏の考えを押さえつつ、人間関係論のノスタルジーにはまらない、挑戦的な組織文化をつくることをしていきたいと考えています。