泳ぎを愉しむ(3)
当時のTI(トータルイマージョン)スイムでは、当時1年に一度、グアムでの約1週間の
スイムキャンプを行っていた。プログラムにはレッスンや個別指導の他、オリンピックプールを借りての15000メートルのタイムトライアル、そして海岸でのオープンウォータースイムが組み込まれていた。
自分自身とてもそれだけのながさの泳ぎには自信がなく、わざわざそこまでするのは好きな人の道楽とまで
思っていた。
しかし美しく泳ぐということにも身体の構造から限界を感じていたこともあり、海を悠々と泳ぐYoutubeの
コーチの姿にも憧れるものがあった。そしてだんだんと、キャンプに参加してみたいものだと思うようになっっていった。おりしも日本にTIをもちこんだ竹内ファウンダーが、世界的に有名な遠泳に挑戦されていた
こともあり、自分自身でできるトレーニングができるプログラムを開発されていた。こうしたプログラムにのっていけばそれなりに泳げるようになるかもしれないと思い、その新しい練習プログラムに挑戦して、最終的にはキャンプに参加することを目標にした。
プログラムには徐々に泳力をたかめていく数ヶ月におよぶメニューが組み込まれていて、定期的に進捗を確認するといったものだった。例のメトロノーム的なテンポトレーナーをつかい、泳ぎのテンポとストロークを上げていく練習や、「前のめり感」や「安定感」「なめらか感」といった身体感覚にポイントに力点を置いた練習など、様々な組み合わせから成る小一時間のメニューで構成されていたように記憶する。
それまでも地元のプールには健康維持のため漫然とは行っていたが、それまでは無目的に練習をしていた。
しかしキャンプへの参加を目標にすることで、練習のモチベーションも上がった。仕事終わりや休日に週に4、5日間くらいのペースで練習に行き、防水ポーチにいれた練習メニューをプールサイドにおいて、
一回一回手順を確認しながら泳いだ。当然こんな風なことをやっている人はプールにはおらず、恥ずかしく
もあり、最初は奇異にみられることもあった。が、だんだんと「よくやっていますね」と声をかけられるようにもなり、孤独なプールの練習の気が紛れる事もあった。
しかし、あっという間に自信がないまま、現地に向かう時期に成ってしまった。現地の宿泊施設に直接集合するのだが、参加されている方は皆さんは常連の方が多く、「去年はどうだった、その前は」という話をされる
ので気後れもあった。
キャンプは島を周回する早朝のマラソンもあったりして、なかなかのスパルタプログラムであった。
それでも、灼熱の太陽の下で、景色のいい野外のプールでのレッスンは快適なものがあった。肌が弱いので上半身も覆う形の水着でないと火ぶくれに成ると聞き、改めて南の島の気候にも驚いた。現地では数センチ
単位でのフォームの修正される様な練習もあり、なかなか身体が追いつかない。そうこうしている内に、
いよいよタイムトライアル本番の日を迎えた。前日は緊張してよく眠れなかったので体調も万全ではない。
50mを30往復するので、プールの両側に「今何往復目」かを表示する数字のプレートが用意され、
それをめくる担当もしたが、数人に対応するため、こちらもめくるのを間違えないかなど気をもんだ。
短水路(25m)だとターンで距離を稼げるが50mはそれができない。しかもタイムを意識しているので、前半いつもより飛ばしがちであった。中盤にさしかかると、そうした影響からだんだん疲労が貯まってきて、
ストロークの回数もふえてくるのがわかる。これで最後までもつのかと急に不安にもなりつつ、なんとなく
意識も遠くなってくるかんじもあり、ターンの時に思い切り呼吸をして間をつないだ。ラストスパートはともかく気合いで腕を回し、となりのコースの人も頑張っていると言い聞かせながらゴールまでたどりついた
ときはほんとうに必死だった。それでも30分くらいで泳げたのは自分でも予想外であった。
さらに最終日には実際の海にでてのオープンウォーターがあった。海はプールとは全く別物で、きれいな
水であるとはいえ、塩分もあり、また視界もプールほど振るわない。呼吸をしながら頭をだして方向を
確認しながら泳ぐのだが、これも慣れないため塩水をどうしても飲んだりして大変だった。結局海での
泳ぎはプールのようには行かず1.5倍くらいの時間がかかった。汐の流れに流されて大きく弓なりになって泳いできたことがあとでビデオを見て分かった。
そんなこんなで大変なキャンプではあったが、それでもこうした経験ができたことは自分としての自信に
なった。但し何度も参加したいというまでに行かなかったのがだらしないところだ。その後キャンプは
ファウンダーが大病されたことやコロナもありなくなってしまった。が、スクールは体制もあらたにイー
ジースイムという名前にかわり、以前からある個人やグループのレッスンに加え、長距離バタフライなど、
また新たなプログラムが提供されている様だ。もともと運動が苦手であった自分にとってこのメソッドに
であえて運動が愉しく思えるようになったことは、ストレスに対する対応も含め、人生にとって大きかった。
私も昨年大病をし手術をした。ようやくこの夏1年経って、よせばいいのに水中ウォーキングのついでに、
恐る恐る泳げるかどうかを公営プールで今年の夏にためしてみた。さすがに以前のような体力はなかったが、
それでも休み休み1000メートルくらいは泳げたのは、このときのトレーニングのおかげだろう。手術の
後遺症で胃液が逆流するため、特に身体が上下する動き、背泳ぎやターンなどが出来なくなってしまったのはややショックだった。今は竹内ファウンダーの「クロール大全」「革命バタフライ」という新たな本を眺め
ながら、当時を思い出して無理のない程度に水に親しんでいる。
気象変動で酷暑が続くようになり、体調にも響くし電気代もバカにならない。そして地元の屋外プールが
当時のグアムの日差しの様になっている。焼けるような直射日光のもとで当時を思い出した。