これもイノベーションのジレンマ?
またまた番組評だが、正月にNHK「魔改造の夜」という番組をみた。昨年放送された再放送であったが、日本の技術系の大企業、中小企業や大学が入り交じって、日用品を改造することで規定の勝負をするという企画。その最新作の電気ケトルを改造した綱引き合戦というもので、IHIとSONYの勝負が印象的であった。
ネット上に各社の取り組みのメイキングなどを見ることができるが、電気ケトルを動力にするという改造では普通蒸気機関という発想になる。IHIはボイラーやエンジンを手がけていることもあり、当然のごとくレシプロエンジンの開発(改造?)に取り組んだ。さすが社内にはそうしたものづくりのための設備や測定具などがそろっている。一方SONYは、社内にエアーもないので、ミニコンプレッサーを用意して挑戦していたところが対称的。PlayStationの開発とはかなり距離のある挑戦だ。
SONYサイドは、そうした経験の無い中ではサイクルをつくることを諦め、なんとシリンダに注入した蒸気が冷えるときの収縮力のみを綱引きに使用する発想で電気ケトルを改造した。結果は本格的エンジンに挑戦したIHIが、一発勝負の機能しかないSONYの改造機に意外にも負けてしまった。
たしかに、一発引くだけでは動作の継続性がないが、とにかく綱を一定距離引くという目的に特化し、一般的にもつべき機能を排除した。これは大げさかも知れないが、不十分な機能の製品が市場の価値を一発逆転する、いわゆるイノベーションのジレンマでの逆転の瞬間を、勝負事のなかで見る思いがした。SONYが井深さんの「フライト中に音楽を聴きたい」という希望にしたがって機能をそぎ、音質の不十分なウォークマンを今で言うアジャイル的に世に出した、あのDNAのようにも見える。
そもそも今ではいつでもお湯のでる、万円単位のする電気ポットが、改造で使用された数千円の瞬間沸騰ケトルにいれかわれりつつありここにもそうしたジレンマが見てとれる。あらためて、現在すでに強固なプレーヤーがいる市場に対し、経験や技術が乏しくても、柔軟な発想力があればこうして逆転劇を演じることができる、というものづくりにおける厳しさと同時に希望と可能性を番組で感じさせてもらったようだ。
その後IHIと、同時にエントリーした東京R&D社という本格的エンジン勝負をした会社同士で「魔改造の昼」というアフターイベントをSONYも参加してIHI本社で行ったという様子もR&D社のブログにあった。こうしたものづくりを通じてエンジニア同士が交流を深めるというのも、ものづくりの醍醐味であろう。なんか楽しいそうでいいなあ。当社でも何かやってみたい。
(SONY社、日本ハイドロシステム社のHPより)
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/technology/activities/makaizo/